文藝春秋2012年3月号(amazon)には尾野真千子の「『カーネーション』と私」という記事(冒頭だけ読める)があると知って即座に購入した(同じ号には芥川賞受賞作2本も載ってるよ)当方が、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の第111回目の放送を見ましたよ。
1954年(昭和34年)6月12日、東京の直子(川崎亜沙美)から電話があった。店で受けたのは松田(六角精児)だった。直子は優子(新山千春)に伝言があるという。松田が電話を替わろうとしても、直子はそれを断った。
直子は一生に一度の発言だと断った上で、優子への屈折した声援を送った。小さな頃から自分の目の前には優子がいた。優子に追いつき、追い越そうと努力してきたことで今の自分がある。優子にはいつまでも卑屈になっていないで、また自分を追い越し、目標とする人物になって欲しいと言うのだった。
しかし、その話は松田の耳に入らなかった。最終的にその伝言が優子に伝えられることもなかった。なぜなら、その時、店は野次馬も大勢集まるほどの騒ぎになっていて、それどころではなかったのだ。
2日前、北村(ほっしゃん。)が詐欺の容疑で警察に逮捕された。大量に売れ残った洋服に、捏造したディオールのタグを付けて販売していたのだ。しかも、そのタグは粗末なものだったため、すぐに事件が発覚したという。
この事件の取り調べのため、刑事が店にやってきたのだ。糸子(尾野真千子)は事情を聞かれた上、北村のためのデザイン画などが押収された。
糸子は自信の潔白を主張した。しかし、以前から何度か悪い評判の立った糸子なので(戦時中は闇商売をしていると言われ、戦後には北村に詐欺を働いたというホラ話や、周防(綾野剛)との情事など)、身内にも簡単には信じてもらえなかった。そこで、これ以上噂が立たないように、商業組合の三浦(近藤正臣)に相談へ行った。
すでに組合事務所にも刑事は来たという。しかし、三浦は北村に同情的だった。
北村は威勢だけはいいが、実績や人脈もなく、商売人としてはまだまだ半端者だ。大きな投資をした商売が失敗して焦っていた気持ちもわかると言うのだった。
糸子は衝撃を受けた。自分は商売人として成功していたので、北村の心境を思いやれなかったことを反省した。そして、彼の事業が失敗したのは、自分が強硬に採用させたデザインのせいであると落ち込んだ。
三浦は、糸子を慰めつつ、むしろ北村は幸運だったと評した。ここでバレなければ、北村は次々に悪事に手を染めたことだろう。初犯で捕まって反省することが何よりだと言うのだ。それには糸子も納得した。
家に帰ってくると、優子と聡子(安田美沙子)、そして千代(麻生祐未)までが店の前で爆竹遊びをしていた。糸子は腹を立てるが、彼女らはそれが気晴らしだというのだ。刑事が来てからふさぎ込んでいた雰囲気が、爆竹の音で一気に晴れると言う。とても楽しそうだった。
他の二人が家に引っ込むと、優子と糸子だけが残された。
優子は満面の笑みを浮かべ、心を入れ替えたと告白した。明日から再び店で接客をさせて欲しいと言うのだ。オハラ洋装店は優子が生まれた時から存在している。だから優子は、何もしなくても店は存在し続けるのだと甘えていたところがあった。ところが、それは間違った考えだと悟ったのだという。糸子が必死になって守ってきたからこそ今の店がある。明日からは自分も一緒になって店を守っていきたいという決意を表明した。
優子は活き活きとした表情を浮かべ、先に家に入った。
残された糸子は、呆然と彼女の後ろ姿を見送った。
ここで自分もニカッと笑い、「嬉しい」と言えれば良かっただろうにと反省した。しかし、それは糸子にはできない芸当であり、一生無理なことのように思えた。なぜなら自分は、いつも仏頂面だった善作(小林薫)の血を濃く受け継いでいるからだ。
・・・その時、あの世から「ちゃう!」という声が聞こえた。
1959年(昭和34年)10月。
直子の同級生の斎藤(郭智博)が、直子と同じく装麗賞を獲得した。感極まって涙ぐむ斎藤を、直子は自分のことのように大喜びで祝福した。
それからしばらくして、直子は岸和田に帰省した。優子の結婚式に出席するためである。
ところが、直子は結婚式には相応しくないド派手なドレスを着ていた。その姿に、優子は激怒した。相手の親族が見たらビックリ仰天するに違いない、式がぶち壊しになるというのだ。ところが、そんな事に応じる直子ではない。へそを曲げて家を飛び出した。
直子が外へ出ると、店の前に北村がいた。詐欺事件は初犯だったこともあり、すぐに釈放されたのだ。そして、優子から結婚式に招待された。けれども、自分のような前科者が出席しては結婚式を台無しにするのではないかと思い、紋付袴まで着用したのに顔を合わせづらいのだ。
詐欺事件のことを一切知らされていなかった直子は、北村の腕を引いて家に入れようとした。しかし、躊躇する北村は動こうとせず、引っ張り合いになった。
ついには騒ぎを聞きつけた優子が表に出てきた。
北村のことが大好きな優子は、彼が式に出てくれないと嫌だと言って涙ぐんだ。優子を祝福したくても自分は汚れていると思う北村も大声で泣き出した。ふたりは道の真ん中でおいおい泣きながら抱き合った。
糸子は呆れた。これはみんなの同情を引こうとする、北村のいつもの手だと見抜いていたからだ。
結局、直子は普通の振袖に着替えさせられた。まだ隅っこのほうで拗ねている北村は、直子と聡子に両脇を抱えられて式場へ向かった。
その後を、糸子は半分白けながらついていった。
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