習慣とは面白いもので、『カーネーション』が終わったのだから少し起床時間を遅くして朝はゆったりと準備して出勤する生活に戻ろうと思っていたのに、適当な時間になれば目が覚めるし、自然にBSプレミアムにチャンネルを合わせるし、気づけばテキストエディタも起動していた当方が、NHK朝の連続テレビ小説『梅ちゃん先生』の第1回目を見ましたよ。
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第1週「あたらしい朝が来た」
1945年(昭和20年)8月15日朝。
東京・蒲田に住む16歳の女学生・下村梅子(堀北真希)は夢を見ていた。軍事工場で勤労奉仕を行う自分が旋盤機を壊してしまい、みんなに迷惑をかけてしまうという夢だ。しかし、そんな酷い夢を見ても、目をさますことはなかった。
梅子はいつものように朝寝坊をした。梅子の家族も、梅子の寝坊の癖はもう直らないと諦めており、あまり真剣に起こそうともしない。梅子は朝食を抜いて出かけざるを得なくなった。これもいつものことである。
梅子ら下村家の隣には、旋盤職人の安岡家が住んでいる。朝も早くから、梅子の幼馴染で息子の伸郎(松坂桃李)と父の幸吉(片岡鶴太郎)が怒鳴り合いの喧嘩をしている。伸郎が仮病を使って仕事を休もうとしているので、幸吉が激怒しているのだ。幸吉に追い掛け回され、伸郎は下村家の中に逃げ込んだ。
ふたりが喧嘩をするのはいつものことで、下村家の者たちは特に気にしない。唯一、梅子の父で大学の医学部教授である建造(高橋克実)だけは、念のため医師の診察を受けることを勧めた。医学者として、万が一の事場合を心配するからだ。一方、昔ながらの職人である幸吉は病気など気合で治ると考え、診察の時間がもったいないと答える。そのような時間があったら、国のために働くべきだという考えた。建造と幸吉は隣同士だが、あまりウマが合うようには見えなかった。
梅子の兄・竹夫(小出恵介)は医学生である。本来なら徴兵されて戦地に行ってもおかしくない年頃であるが、医学生として徴兵免除されているのだ。竹夫は少し悩んでいた。国民が一丸となって敵国と戦っている中、自分だけ徴兵や勤労奉仕を免れ、勉強だけしていていいのかと呵責の念があるのだ。
そんな竹夫に対して、建造は医学の勉強こそ国への奉仕だと諭した。立派に医術を身につけ、人々の役に立つ人物となることが医学生の奉仕だと話すのだった。
梅子の母・芳子(南果歩)と祖母・正枝(倍賞美津子)は、梅子におにぎりとさつまいもを弁当として持たせてくれた。それを持って、梅子は軍事工場へ出かけた。その工場では姉・松子(ミムラ)も同じく勤労奉仕している。
寝坊した梅子だったが、朝食の時間を省略することで、工場には遅刻せずに着いた。しかし、根っからの不器用さと空腹のせいか、またしても失敗してしまった。縫製に使う手縫針を折ってしまったのだ。今日の夢で見たように、いつも失敗ばかりの梅子は工場の監督官(徳井優)に目を付けられており、失敗がすぐに露呈した。監督官にこっぴどく怒鳴られ、梅子は小さく縮こまってばかりだった。
そうしているうちに、昼になった。今日は正午に、ラジオで天皇陛下から特別のお言葉あるということで、女学生たちは広場に整列した。腹の減ってしかたのない梅子は、外に出る前にこっそりとおにぎりを頬張った。急いで食べたつもりだったが、他の女学生たちよりも大きく遅れてしまった。一人だけ遅れて出てきたせいで、またしても監督官に見とがめられ、怒鳴られた。
恐縮して小走りになった梅子は、ラジオのコードに足を引っ掛けてしまった。そのせいでコードが切れてラジオが壊れてしまった。予備のラジオを持ってきて事無きを得たが、梅子は監督官にひどく叱られた。
放送が始まった。梅子たち女学生は、言葉の意味がわからなかった。しかし、監督官が日本が戦争に負けたのだと説明したのを聞いて、みなその場で崩れ落ちるように泣いた。
そんな中、姉の松子が列を飛び出して建物の陰に隠れた。その姿を見た梅子は、すぐに後を追った。
他の女学生たちが泣き悲しむ中、松子だけは静かに喜んでいた。戦争が終われば、松子の婚約者のサトシが帰ってくるというのだ。サトシは父・建造の教え子で、軍医として従軍しているのだ。松子は戦争が終わって嬉しいのだ。
梅子は、戦争が終わったことの意味を考えた。梅子には、喜んでいい事なのか、悲しむべきことなのかわからなかったのだ。梅子は竹槍の軍事教練やバケツリレーによる消火訓練が苦手で、いつも失敗ばかりだった。それをしなくて済むようになったのは嬉しいことかもしれない。姉も婚約者の帰国を待ち望んでいる。一方、周りの人々を見ると、どの顔も皆、悲しみに沈んでいる。
ますます、自分と周囲と、どちらの感情が普通なのかわからなくなるのだった。
3月に行われた東京の大空襲で、梅子の住む蒲田も焼け野原となっている。あちこちに瓦礫が散乱し、土砂が山盛りになっている。
帰路に着いた梅子は、今朝仮病で騒いでいた伸郎が土を掘り返しているのを見つけた。土砂から大きな時計が覗いているのを見つけたので、それを掘り出して売るのだという。勝手にそんなことをしてはいけないと思った梅子は、やめるように言った。しかし、伸郎は耳を貸さない。
かわりに伸郎は
「新しい時代を掘る」
などとうそぶいた。
その言葉に何かを感じた梅子は、伸郎を手伝って一緒に掘った。
しばらくして土を取り除くことができたが、それは本物の時計ではなく、単なる看板に書かれた絵だった。ふたりの苦労は水泡に帰した。
けれども、伸郎はめげなかった。すぐに別の場所を掘り返し始めた。
梅子は「新しい時代を掘る」という言葉を胸のうちで反芻した。その言葉に誘われるかのように、自分も手近な場所を掘り始めた。
戦争がやっと終わった。しかし、梅子の「人生」という新しい戦いが今始まろうとしていた。
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